【ライブレポ】邦楽器にのせて手塚治虫を詠む・・・デーモン閣下が!(10.1.16)

横浜・みなとみらい小ホールで行われた
「邦楽器にのせて手塚治虫を詠む・・・デーモン閣下が!」に
行ってきました。邦楽維新Collaborationとはまた違う今回の公演。
個人的には非常に思い出深い公演となる、そんな気がする内容となりました。



【会場】

会場は横浜みなとみらいホールの小ホール。http://www.yaf.or.jp/mmh/
ここは「電気楽器」は基本的に使用不可なので、今回は黒船バンドはなしです。
ここで公演するのは2度目。前回は春琴抄でした。
【ライブレポ】純邦楽によるデーモン小暮の『春琴抄』異聞!(09.03.10)
http://but-again.at.webry.info/200903/article_12.html
邦楽維新Collaborationとはまたちがった趣の公演。



【出演者】

●デーモン閣下(朗読/歌)
 公式サイト http://www.demon-kogure.jp/
●三橋貴風(尺八/プロデュース)
 日本伝統文化振興財団サイト内 http://japan.japo-net.or.jp/artist/file/mitsuhashi-kifu.shtml
●首藤久美子(薩摩琵琶/??お楽しみ??)(←後述)
 日本音楽集団サイト内 http://www.promusica.or.jp/member/m-j-syutou.html
●外山香(二十絃箏)
 邦楽の友レーベルサイト内 http://www.hougaku.co.jp/cd/cdhtml/14.htm
●久本桂子(十七絃箏)
 日本音楽集団サイト内 http://www.promusica.or.jp/member/m-j-hisamoto.html

しかし「日本伝統文化更新財団」のサイト。
三橋さんの芸術祭大賞受賞の事も、福田千栄子さんの改名の事も、
全然更新されていないのは。というか本人たちも気にしていないのかと(汗)

ステージは、下手から外山さん、その後ろに久本さん、中央に閣下、首藤さん、三橋さん。
そして閣下の後ろには・・・チェンバロ!?邦楽器とちゃうやん?でもワクワク。
でもひとめで「チェンバロ」という単語が一発で出てきたな、えらいぞ私(謎)



【前説・オープニング】
前回同様、横浜の船の汽笛などの音に合わせて、閣下の前説。

そして暗転、首藤さんの薩摩琵琶で「祇園精舎の鐘の声」と朗々と。
実は私、閣下関連の邦楽公演では友吉鶴心さんの琵琶しか聞いたことがなかったのです。
で、薩摩琵琶への印象というのが「時を斬る」「空気を裂く」という、
ある種の激しさや荒々しさを表現する楽器と思っていたのですが。
首藤さんの音は、もっと切なくて儚げで、それでいて物悲しくも張りがある。
「余韻嫋嫋」と表現したい、静かに響く音。
弾く人や、演奏のアレンジなどでも全然違う音に聞こえるのだなと感じました。



【事前知識:手塚治虫作「カノン」】

手塚作品に疎い私。でも「カノン」はなんとなく知っていました。
たまたま去年の夏、NHKで戦争を扱った手塚作品を紹介する番組を見て。
調べたけど、これと思う。田原総一朗氏が「アドルフに告ぐ」を熱く語ってたし。
●特集・手塚治虫戦争館 http://www.nhk.or.jp/tezuka/sp/index.html
番組でメインで取り上げていたのは「アドルフに告ぐ」だったのですが、
(田原氏が熱弁 笑)私はそれ以上に「カノン」が非常に印象的で。
タイトルが可愛いじゃない。カノン♪でも、その内容は・・・

とくに「カノン」の「とある残酷なシーン」が、
40過ぎの大人の私でも脳裏に焼き付くような衝撃的な絵で。
たしか番組では、この作品を手塚さんが描かれたのは、
戦争への怒りや悲しみをできるだけ表現するために、
あえて残酷な表現をしている・・・という感じで解説されていたと思います。

いくら文章で説明するよりも「百聞は一見にしかず」

「カノン」は最近発刊のものでは、この書籍に収録されています。
手塚治虫「戦争漫画」傑作選〈2〉 (祥伝社新書)
祥伝社
手塚 治虫


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過去に出版された「カノン」が収録されている書籍については下記サイトを参照。
●手塚治虫 のすべて(encyclopedia of Osamu Tezuka)(個人サイトさんです)
http://www.phoenix.to/index.html サイト内
●カノン(Canon)http://www.phoenix.to/74/74-40.html(あらすじあり)

ちなみに私は今回、この秋田文庫版を入手しました。
時計仕掛けのりんご―The best 5 stories by Osamu Tezuka (秋田文庫)
秋田書店
手塚 治虫


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有体に書きますが、本当にかなり衝撃的です。ストーリーも絵も。
ある程度の覚悟と認識を持った上で手にされることをお勧めします。
でも、それは受け止めるべき衝撃だと、個人的には思います。



【朗読劇:手塚治虫作「カノン」】

邦楽演奏陣が全員登場し、三橋さんがお一人ずつ簡単に紹介。
そのあと静かに演奏が始まったのが・・・「パッヘルベルのカノン
そう「カノン」と聞いて思い浮かべる、あのメロディ。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%8E%E3%83%B3_(%E3%83%91%E3%83%83%E3%83%98%E3%83%AB%E3%83%99%E3%83%AB)(試聴可)
尺八、薩摩琵琶、箏での演奏は、もう邦楽器とかそういう概念を超えた音。
ものすごく美しいメロディ・・・

そんな中「バスの車掌さん」のセリフを言いながら客席中央の扉から現れる閣下。
衣装は去年暮れのNHK総合で放送された「大相撲とことん言います2009」で初出の、
「あずまんレッド」(ロングベストかと思っていたけどジャケットなんですね)
金の唐草系の模様のついたズボンに、赤青羽冠。
そのまま「カノン」の朗読に突入。

夏のある日、30年ぶりに小学校の同窓会の案内を受けた加納。
バスに乗って向かったのは、既に人が住まなくなった村にある古びた校舎。
そこで待っていたのは年老いた校長先生。そして・・・

甘苦い花の蜜の記憶と共に蘇る30年前の友情、初恋・・・
現在の味気ない生活への苦しみと、過去からの激励。
戦争の恐ろしさや怖さを表現した、恐ろしい作品なのに、
そこに漂うのは、慈しみや愛しさや優しさ、ほんの少しの悲しさと儚さ。
衝撃的な絵の多いわりに、読了後にほんのりと満たされる気分になる、
そんな不思議な世界感を、閣下の朗読と邦楽器の演奏で、
見事に奏でられて行きます。

閣下が今回取り組まれたのは「漫画を文章に『翻訳』する作業」

過去のいろんな朗読作品は、原作が既にあるものを削ったり笑いを足したり(?)。
でも今回は「漫画」という視覚的な作品を「文章」に置き換える、
いわば「翻訳」とも言える作業であり、WebRockでも書かれていたように、
この年末年始に閣下は随分と苦労をされて作り上げたそうです。

漫画の「ふきだし(セリフ)」はもちろん、ひとこまひとこま、
細かく描写されていて、それを書き出すだけでも大変だったと。
また、出来上がったものが果たして客に上手く世界観が伝わるかどうか、
随分不安でもあったそうです。
終演後、客席に向かってそんな話をされながら「伝わったかな?」
それに応える盛大な拍手に「良かった」と笑う閣下が印象的でした。
本当に、本当に、苦心して作られたんだなと思います。

そんなストーリー展開の中で奏でられた曲が・・・
  ・フルートソナタ / バッハ
  ・ノヴェンバー・ステップス / 武満徹
  ・11月の夢の歌 / 吉松隆

・・・まだいろいろあったと思うのだけど、正確には(汗)
とにかく、静かで優しい綺麗な曲が多かったです。

それらの曲の中で出色だったのが、
首藤さんの「お楽しみ」であったチェンバロの演奏。
チェンバロというとバロック音楽の代表の楽器のイメージがありますが、
もともとはアジア大陸の楽器が西洋に移って行ったもの。
優しさや儚さが込められた音が美しかったし、
箏や尺八とも何ら違和感もなく音が混じり合って。

カノンのリズムから全く違和感なく、
あの夏の日に想いを馳せるように、
  ・少年時代 / 井上陽水
に移行してゆき、閣下の静かな優しい歌声が響き、
物語もラストを迎え、甘苦い蜜の味とともに終わるのでした。



【アンコール】

朗読が終了し、すぐ引っ込んだメンバー、アンコールも程なく再び登場。

いろんなトークをしながら(後述)
演奏されたのが「ZUTTO / デーモン閣下
この曲、本当に大好きで、今年もまた聞けて嬉しかったです。
閣下の作品の中で、私の宝物のような曲なのです。

そして最後の曲は、チェンバロを久本さんが弾いての「異邦人 / 久保田早紀
チェンバロもアジアの楽器のような音なので、その違和感も感じず、
美しい仕上がりになっていました。
惜しむらくは、トークで閣下や三橋さんも「空気が乾燥している」と。
閣下も少し歌いづらそうだったのと、久本さんの楽譜が空調で飛びそうになるのを、
手で抑えつつの演奏だったのが、ああなんてもったいない。
・・・ということで、再演を希望します(笑)

というくらい、本当に「美しい」という形容がピッタりの、
邦楽維新Collaborationとはまた違った、素晴らしい作品でした。
閣下の『翻訳』のご苦労。でもそのおかげか、繰り広げられる世界感が、
甘く切なく残酷で美しく、すべてが愛しく思えるほどの作品と言えるでしょう。
再演の機会はないのかもしれませんが。でも。ぜひまた。いつか。



【トーク・その他エピソード】(順不同・記憶だよりなので不正確です・雰囲気レポ)

●そもそも今回「カノン」を題材にする事になったのは、
閣下が数年前に他のお仕事で手塚作品について調べることがあり。
閣下が三橋さんに手塚作品の短編集などを勧めたことがあると。
今公演をするにあたって「漫画を朗読でやってみよう」というときに、
三橋さんから「カノン」はどうか、と勧められたのだそうです。

●首藤さんは車の免許を取って、買った車がムスタング。
案の定車庫入れなどでガリガリやっちゃったり。で、わざわざ遠くの広い駐車場に停めて、
琵琶をうんうん抱えて稽古場に行ったりするのだと。
ちなみにムスタングにした理由は、教習所の前にフォードの代理店があったから。

●三橋さんいわく、箏奏者には箏奏者らしさ、尺八奏者には尺八奏者らしさ、
それぞれの楽器の奏者にはその独特の性格があるみたい、と。
上記のムスタング話を聞いて「琵琶奏者は変わり者が多い」と衝撃発言(笑)(冗談ですからね)

●箏には「生田流」「山田流」など流派があり、外山さんは生田流、首藤さんは山田流。
箏曲Wiki http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AE%8F%E6%9B%B2
箏を弾く爪の形も違っていて、生田流はスクエアカット、山田流は尖っている。
閣下「それで引っ掻くと痛いとか」
首藤「でも首とかこっている時、これでツボを押すと気持ちよくて」
(脳天とかグーって押したら気持ちよさそうですね)

●今回チェンバロを首藤さんも久本さんも弾かれ。三橋さんが解説。
「邦楽奏者」というと、生まれてすぐにお稽古を・・・と思われがちだが、
お二人とも音大卒なのでピアノなども弾かれた経験がある。

●三橋さん自身も子供の頃はヴァイオリン、トランペット、ビックバンド・・・
とやってきて尺八を始めたのは大学生になってから。
邦楽器を楽しむのは、いくつになってからでもできる、と。

●↑という話を終演間際に話しだし、皆からの「ながー」という表情を読み取ったのか、
「もうすぐ終わりますからね」と笑って話し続ける三橋さん(笑)芸術大賞受賞者。

●薩摩琵琶の原型はアジア大陸で生まれた楽器。
それが西洋に行きギター等の楽器にもなり、中国に渡ったのは琵琶になり日本へ。
正倉院にある国宝の琵琶は螺鈿も施されていて美しいと。

●チェンバロの元は、アジア大陸の楽器。
それがなんたらという楽器・・・と解説がいろいろあったのですが、
そのうち中国の「楊琴」しか覚えられない私の脳の限界。
(でも揚琴はチェンバロの音に近い。ピアノに近いとも言えるんだけど)
・チェンバロWiki http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%AD
・揚琴http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8F%9A%E7%90%B4

●で、不意にチェンバロの前に座る三橋さん。
えっ三橋さんも弾かれるの?「いや座ってみただけなんですけどね」わぉ。
そして予想通り「吾輩も♪」ってなノリでいそいそとチェンバロの前に座る閣下。
チョロッと弾いて、満足気な笑顔(まさかそのノリで購入されてしまわないかと 汗)